「派遣」という働き方について、どういうイメージをお持ちですか。
雇用が不安定、責任感がない、待遇が悪いなどマイナスのイメージを持っている人も多いかと思います。
しかし、IT業界は派遣社員が多く活躍する業種であることをご存知でしょうか。
この記事では派遣プログラマーとは、どういう働き方なのか、デメリット・メリットについて紹介していきたいと思います。
派遣プログラマーとは
派遣の仕組み
派遣とは、雇用契約を結んだ企業(派遣元の企業)から就業先の企業(派遣先の企業)へ文字通り「派遣」され、就業先の企業の仕事に協力することで、その対価を得る働き方です。
企業間では、派遣社員の時給などを決める契約が結ばれ、その契約に応じたお金が派遣元の企業へ支払われます。
登録型派遣(一般派遣)・常用型派遣(特定派遣)・紹介予定派遣の違い
派遣には、3つの種類があります。
1. 登録型派遣(一般派遣)
労働者は派遣会社(派遣元の企業)に登録し、派遣会社から紹介された企業で働きます。
働いている期間のみ、派遣会社と雇用契約を結び、給与が支払われます。
派遣期間が終了すると、次の派遣先の企業で働き始めるまでは無収入になり、有給休暇や福利厚生などほとんどないに等しいため、不安定な働き方といえます。
2008年にリーマンショックが起因となって発生した世界的な金融危機により、業績が悪化した企業が派遣の契約を次々と打ち切り、社会問題になりました。
いわゆる「派遣切り」が発生したのが、この登録型派遣(一般派遣)です。
2. 常用型派遣(特定派遣)
IT業界に多いのがこの派遣形態です。
労働者は派遣会社(派遣元の企業)に正社員として雇用され、人材を求める企業に派遣されます。
派遣期間が終了した後は、次の派遣先で仕事が始まるまで、派遣元の企業で働くため、無収入になることはありません。
派遣元の企業の正社員であるため、有給休暇や、最低限の福利厚生は保証されます。
登録型派遣と比較し、安定した派遣形態といえるでしょう。
3. 紹介予定派遣
雇用期間終了後に、派遣先の企業から正社員や契約社員といて雇用されることを前提とした派遣契約です。
派遣期間中に、派遣先の企業の実態を見て、働いていけるかを見極めた上で雇用契約を結びます。
企業側としても、派遣期間内で、その人の技術や人間性を判断することができ、派遣社員と、企業の両方にメリットのある制度です。
派遣プログラマーの年収
ここでは登録型派遣の年収について紹介します。
プログラマーの場合、専門性の高いスキルを要するため、派遣社員の時給は、他の業種と比較し、高い相場になっています。
時給で2500円~3500円の間が多いです。
1日8時間、1か月20日働くと仮定し計算をすると月収40万円~56万円。
年収にすると480万円~672万円の計算になります。
一般企業の平均年収より高いように見えますが、福利厚生がないためトータルで見ると同じくらいかと思います。
また、この計算結果は1年間切れ目なく働けた場合を想定した年収です。
契約満了から次の派遣先の企業で仕事を始めるまで期間があけば、その分収入は下がります。
派遣プログラマーのメリット
派遣プログラマーで働く場合のメリットはどういう点か教えてください。
その他にも、いろいろあるんですよ。
1. 初心者でも採用されやすい
登録型派遣であれば、初心者でも仕事を紹介してもらえる可能性が高いです。
実務経験者と比較すると、時給など待遇面では劣りますが、初心者が実務経験者を積むことができるのは今後のキャリアにとってもプラス材料になります。
派遣で実務経験を積み重ね、アピールできる材料を蓄積し、正社員を目指すのも「派遣」の上手な使い方だと思います。
2. いろんな会社の開発現場を経験できる
派遣社員が1カ所で3年以上働き続けることは基本的にできないことになっています。
一つの開発プロジェクト限定で派遣され、プロジェクト終了後と同時に派遣期間終了となることもあります。
システム開発の進め方は、企業ごとに違いますし、同じ企業の中でも部署ごとに違う場合もあります。
多くの開発現場を経験できることは、プログラマーにとって大きなプラスになります。
IT企業各社は、どうすれば効率的に品質の良いシステムを開発できるのか、日々試行錯誤しながらシステムを開発しています。
そのノウハウを吸収できることは、エンジニアとして大きな価値があります。
3. 大規模なプロジェクトに関わることができる
大企業のシステム開発の現場でも、多くの派遣プログラマーが活躍しています。
実際に派遣で働いた経験のあるプログラマーに開発実績を聞いたところ、毎日数万人が利用する鉄道の運行を管理するシステムや、社会インフラの制御システムの開発に関わったことがあるということでした。
働いているのは小さな派遣会社だったのですが、大企業が手がけるシステムの開発を経験していることに驚かされました。
開発した本人も、自分が手がけたシステムがテレビで放映されたり、話題になることが非常に誇らしく思えるということでした。
4. 常にプログラマーとして活躍できる
自社で開発をしていれば、いずれマネジメントの仕事をする年齢になり、多くの場合、自然とプログラマーを卒業することになります。
一方、派遣プログラマーの場合、求められるのはマネジメント力ではなく、純粋にプログラミングの技術です。
つまり、プログラミングの技術習得を怠らなければ、生涯プログラマーとして活躍することができます。
5. 大企業や、有名企業で働くことができる
正社員で入るには難しい大企業、有名企業にも、派遣という形であれば入れる可能性はあります。
通常であれば目にすることのできない最前線の技術や、誰もが知るシステムの開発にたずさわることも夢ではありません。
6. 無理な仕事を断りやすい
派遣先の企業から無理な仕事を依頼された場合、その企業の正社員であれば、断ることができず無理な残業、長時間労働を余儀なくされることがあります。
しかし、派遣社員の場合、雇用元はあくまでも派遣元の企業であるため、仕事を断りやすくなります。
ただし、あまりにも大柄な態度や、理屈の通らない理由で仕事を断ると、派遣の契約を更新してもらえない可能性もあるため、注意しましょう。
7. 人脈が広がる
自社のシステムを開発するプログラマーと比較すると、多くの開発現場に派遣されるプログラマーとでは、人脈の広がりに大きな差がでてきます。
「仕事は会社にくるのではなく、人にくるものだ」と言う話を聞いたことがあります。
実際にプログラマーの派遣の相談をするときは、特定のプログラマーを指定してくることが頻繁にあります。
派遣プログラマーは良い仕事をすれば次々と仕事が舞い込んできます。
また、将来、起業する場合やフリーランスとして活動する場合にも、人脈の広さは大きな武器になります。
8. 時間の融通が利きやすい
これは登録型派遣のプログラマーに言えることですが、自分のライフスタイルに合わせて、就業日数、就業時間を調整ができます。
例えば、子育てをしながら、仕事を両立したい場合、時給の高い登録型派遣のプログラマーは良い選択だと思います。
派遣プログラマーのデメリット
1. ステップアップが難しい
派遣プログラマーとして働いていると、派遣元の企業内での昇進はないと考えて良いと思います。
派遣先の企業大半の時間を過ごすため、自社の管理業務ができるはずがありません。
役職がついたとしても、実体のない肩書きだけの役職になります。
知り合いが勤めていた40人規模の派遣会社は、社長と総務部長以外は全員が一般社員(いわゆるヒラ社員)でした。
仕事の指揮権は派遣先の企業にあるため、派遣元の企業は、指揮・命令をする体制を敷く必要がないため、役職を設けるメリットがないのです。
2. 1か所で働ける期間が限られる
2015年に改正された労働派遣法により、同じ場所に派遣社員として働ける期間が最長3年になりました。
楽しくやりがいを感じられる企業を見つけたとしても、最長3年で契約は終了となります。
派遣先の企業と雇用契約を結ばない限り、継続して仕事をすることはできません。
3. 世間の「派遣」へのイメージが良くない
常用型派遣で働くプログラマーは派遣元企業の正社員ですが、一般的に「派遣」の働き方は登録型派遣が知れ渡っているため、常用型派遣が安定した雇用形態であることを説明するのに手間がかかります。
知人は、銀行で住宅ローンを組む際に、仕事に関する質問を受け、四苦八苦したと聞きました。
派遣で働きながら感じた違和感
作業効率の悪い方が高評価?
派遣の場合、不思議なことに、作業効率が悪い人の評価が高くなってしまうことがあります。
例えば、Aさんが1時間で終わらせる作業を、Bさんが2時間もかけて終わらせた場合、派遣先の企業では早く仕事を終わらせたAさんが評価されます。
しかし、派遣元の企業から見ると、Aさんには派遣先の企業から1時間分の対価が支払われ、Bさんには2時間分の対価が支払われます。
つまり、雇用元である派遣元の企業から見ると、会社に利益をもたらしているのは、作業効率の悪いBさんの方になってしまうのです。
極端に言うと、一生懸命働いて定時までに仕事を終わらせた人より、昼間は仕事をしているふりをして深夜まで残業をする人の方が、派遣元の企業での評価は高くなります。
派遣プログラマーは、こういった矛盾を感じながら仕事をしなければならないのです。
ミスを犯しても責めを負うのは自分以外
派遣プログラマーは、派遣先の社員から見れば、”仕事を協力していただいている人”なので、不具合が発生した時に顧客から責めを負うのは派遣先の社員です。
自分が出した不具合で別の人が叱られ、謝罪しているところを見ていると、いたたまれない気持ちになります。
こんな派遣会社には要注意
特に次の2点は注意してください。
取引先が1社または2社
派遣会社の中には、取引先の企業が極端に少ない、中には1社だけという企業が実在します。
つまり、社内のエンジニア全員を1つの企業に送り込んでいることになります。
この場合、企業間の力関係が派遣先の企業の方に片寄りすぎてしまい、派遣開始の際に交わす契約内容が、派遣元の企業にとって不利な内容になりやすいです。
派遣先の企業から「あなたたちは、うちから派遣を切られれば立ち行かなくなるでしょう」と言われれば、悪い条件でも飲まざるを得ません。
派遣プログラマーの給料を上げるには、派遣契約で取り決める金額を上げる必要があります。
しかし、企業間の力関係が崩れ、仕事に対して得られる対価が変わらなくなった場合、派遣社員の給与が上がることはありません。
「うちの社員は実績を上げているので、金額を上げてください。そうしないと、別の企業に派遣します」と言えるくらい、派遣元の企業に力がなければ、派遣プログラマーとして長く勤めることは難しいでしょう。
大抵の場合、企業のホームページに取引先企業に関する記載があるため、そちらで確認するようにしましょう。
平均年齢が20代
平均年齢が異様に若い企業にも注意が必要です。
これは、派遣会社だけに限らず、すべての企業に言えることですが、平均年齢が低いということは、その会社で長く働くことはできないと考えてください。
結婚して子どもを育てる年代の社員が少なければ、その企業は何らかの問題で家族を養っていけない、守っていけないと判断され、退職する人が多い企業といえます。
私の知る派遣会社は、新入社員は毎年数名入っているにも関わらず30代目前で退職する人が続出し、平均年齢は28歳前後でした。
退職者に話を聞くと、「基本給が上がらず、将来が不安」「残業代がないと生活できない。この先、体力的に残業ができなくなったら、生活が立ち行かなくなる」といった不安から退職を決意する人が多くいました。
それを事前に見極めるため、社員の平均年齢は必ずチェックするようにしてください。
ただし、新しく立ち上げたばかりの企業は、そもそも年齢を重ねた社員がいない可能性があるため、この限りではありません。
まとめ
派遣プログラマーとはどのような働き方なのか、また、メリットとデメリットについてもご理解いただけたでしょうか。
初心者であれば、実務経験を積むために派遣を利用してプログラミングのスキルを覚えることも、派遣先企業との契約次第で可能です。
また、プログラミング経験者の方でも、多くの企業の開発現場を経験し、自身のスキルアップを図るには、良い選択かと思います。
ご自身のキャリアプランに合わせて、”派遣”という働き方も一度ご検討されてみてはいかがでしょうか。