フリーランスは自由、稼げる、時間も選べる——そんな理想論の裏にある“現実”はあまり語られません。
手元に残るお金は想像以上に少なく、稼げば稼ぐほど「仕込むための支出」が増えていきます。
この記事では、貯金という幻想を捨て、フリーランスが本当に生き残るための“お金の使い方”の構造を明らかにします。
ITフリーランスに求められる“見えない役割”
技術力だけでなく、現場で“どう振る舞えるか”がITフリーランスの価値を決めます。ただし、クライアントが本当に求めているのは「現場を回す存在」ではなく、「使い捨てできるスーパーマン」です。
案件の裏にある“使い捨てスーパーマン”構造
案件単価が月100万を超える場合、そこには必ずと言っていいほど“セット販売”の論理があります。フリーランス1名に対し、売り先のない正社員5人を「まとめて引き取ってほしい」というのが実態です。
現場の進捗は、そのフリーランスが8〜9割を回す構成で組まれており、残りの5人は実質“在籍しているだけ”の状態です。それでも企業側としては「彼ら5人分の売上」を計上できるため、プロジェクト全体の帳尻が合うのです。
どこの企業も「使い捨てできるスーパーマン」を求めているのです。30歳以降も継続してエンジニアを続けたいのであれば、この“役者”を演じ続けることができるかどうかにかかっています。
現場で求められる“現代の参謀役”
当時、私が現場で常に求めていたのは“危機への察知能力”でした。ミーティングでは「良い話はいらない。悪い情報のみ最優先で報告しろ」と指示していたほどです。
常に360度、危機を探し続けていた結果、「一人のメンバーの何気ない行動が、数週間後の大惨事につながる」という未来が高確率で見えるようになってきました。
私はその時々の兆候や背景をシステムノートに記録し、チェックシートのような形式で“疑うべきポイント”を洗い出していました。
大手の幹部は、自社の若手が実力不足であることを理解しています。しかし、自分たちが直接教育する時間もスキルもありません。だからフリーランスに「指揮官」ではなく「参謀」としての立ち回りを求めてきます。
ビープロ自身も、民間化された元お役所系企業において客寄せパンダとして登用され、コネで入社したボンクラ社員5名とセットで稼働することになったことがあります。表向きは月100万円超の単価ですが、実態は“育成付き成果保証”案件でした。
管理職の目線は常に「プロジェクトにおいて成功体験を持つフリーランスの名前」にあります。なぜなら、その名前が社内稟議の資料に載るだけで「ボンクラ社員をアサインしたプロジェクト」でも通りやすくなるからです。
かつて私が前線にいた時代には、そういうネームバリューに対して単金が数万円上乗せされることも多く、それなりに報われていました。しかし今では、そうした“見える評価”をする現場は減る一方です。
それでも、高待遇でリピートされるフリーランスに共通する最低条件があります。それは、起きている間は家族がいようと、子どもと遊んでいようと、24時間ずっと仕事が頭から離れない状態でいられることです。
指導がパワハラになる時代の責任転嫁
私が新人だった頃、現場では暑さ5cmの書籍をあてがわれ「この本3冊読んで理解しろ」といった突き放すような教育が常識でした。誰も教えてくれない、質問すれば「それくらい自分で調べろ」、本を借りれば「汚すなよ、俺の私物だ」と釘を刺される。そういう時代でした。
ところが今は少し怒っただけで「パワハラ」と言われ、任せても定時に帰られ、失敗しても責任はこちらにあります。おそらく演技とは思いますが、中には怒っただけで自殺未遂する若手もいて、正論すら封じられることもあります。
最近では退職代行業者なるものが代わりに連絡してくることも多くなりました。
それでもプロジェクトは成立させなければなりません。つまり、“教育不能な若手を含むチーム”で結果を出すことが、今のITフリーランス(高単金)に求められている役割なのです。
フリーランスは貯金できない?その理由
フリーランスになって「思ったより貯金できない」と感じるのは、本人の浪費癖ではなく、そもそもの“構造”に理由があります。
フリーランスは貯金できない?その理由
この過酷な日常を普通の精神で乗り切るのは、ほぼ不可能と言っても過言ではありません。
私の全盛期にはイギリス・ロンドンの金融街「シティ」で、某海上保険システム構築プロジェクトに参加していました。現地の日本人チームのリーダーとして、言語・文化・技術すべての壁と向き合う中、気がつけば毎週末にカジノへ通うようになっていました。
Hyde Park Corner前のインターナショナル・スポーティングクラブ、平日の夜にはQueenswayのゴールデン・ホーショー。毎週末に借金を作っては返済し、また負けて借金する──その繰り返しでした。顔でツケがきくような“常連”になるほど通い詰めていたのです。
話はそれましたが、月100万円を超えるようなITフリーランスを目指すなら、通常の感覚ではまず耐えられません。「飲む」「打つ」「買う」のどれかに金を注ぎ込むことになるのは、むしろ自然な流れとも言えます。
そもそも貯金とはどういう状態か
手元に残す=安心、という固定観念がどうズレているのかをまずは再定義してみましょう。
会社員の貯金=毎月一定の余剰
会社員は基本的に一定の収入があり、生活費を差し引いた余剰を貯金に回すことが可能です。支出が読めるからこそ、貯金が「積み重なる」仕組みになっています。
フリーランスの貯金=波があって当然の構造
一方で、フリーランスは収入も支出も変動が大きく、月によってはマイナスになることもあります。「安定して余剰が出る」という前提がそもそも崩れています。
収入増と支出増はワンセット
稼げば稼ぐほど、自己投資や仕込みにかける費用も増えます。つまり「稼ぐ=残る」ではなく、「稼ぐ=動かす」が現実です。貯金という概念そのものが通用しづらい構造なのです。
実際、自己投資ってどれくらいかかるのか?
フリーランスが現実的にどのくらいお金を“仕込み”に使っているのかを可視化していきます。
ここでいう「仕込み」とは、直接収入を生まない準備や投資全般を指します。たとえばツール整備、技術検証、SNSやブログでの発信、ポートフォリオの更新などが該当します。収益化まで時間がかかりますが、放置すると次の案件が取れなくなります。そういった“先手の打ち続け”が、フリーランスの生存戦略なのです。
実体験ベース|収入と投資の比率
月収や年収ベースで、何にどれだけかけているのか、リアルな数値感を示していきます。
稼働ツール・教育費・営業コストの内訳
ソフトウェア、クラウドサービス、ポートフォリオ更新、SNS広告など、稼働以外にかかる固定支出は意外と多いです。さらに書籍購入も侮れません。
技術書は同ジャンルのものを10冊まとめて購入しても、実際に欲しい情報が載っているのは、そのうちのほんの1〜2冊だけということが多いです。残りの内容は9割方似たり寄ったりで、情報の“差分”にお金を払っている感覚に近いです。場合によっては、求めていた情報がどれにも載っていないこともあります。これがITフリーランスの情報収集の現実であり、常に“外れる可能性込み”での博打に投資している感覚に近いのです。
「3割超え」は感覚ではなく、構造で決まる
年収が上がるほどに投資コストも増えます。自己投資3割は“感覚”ではなく、成長と維持のために“必要な現実”です。しかもこれは手取りではなく額面ベースです。税金と合わせると5割を超えるのが当たり前というのがこの世界の現実です。
「節約」よりも「再現性」にお金を使う発想
収支の最適化ではなく、“当てる回数”を増やすためにお金を使うのがフリーランスの金の使い方です。「残す」より「再現する」に注目が向きます。セミナーに行く時間を取ることすら難しく、平日は定時以降からが自分の業務時間、土日は進捗遅れを取り戻す勝負の時間です。セミナーなんてブルジョアの発想だと笑って済ませる覚悟が、現場では必要になります。
“個人で戦う時代”に求められる考え方
今、世界の富は「物質」ではなく「データ」と「知識」に集中しています。株や不動産といった資産は今も存在していますが、真に価値を持つのは“活かせるスキル”を持った人間がコントロールする「情報の資産」です。
つまり、ただデータがあるだけでは意味がありません。そのデータを読み解き、価値に変える“知恵”を持っている者にしか富は流れません。
だからこそ、これから生き残るフリーランスに求められるのは、「知恵×行動力」という掛け算です。
知恵があっても動けなければ意味がありません。逆に、行動力だけでも消耗して終わります。
この時代における本当の資産とは、「再現できる知恵」と「それを行動に移す習慣」です。
フリーランスが生き残るための“勝ち筋”
現実を見てしまった今、それでもフリーランスとして生きていくためにはどうすればよいか。答えは「再現性のある仕組みを持つこと」です。
最初は運やタイミングでうまくいくこともあるかもしれません。しかし、それを再現できなければ次はありません。自己投資は経験の買い取りであると同時に、「当てる型」を身につけるための行為でもあります。
自分なりの仕組み、思考パターン、稼働のスタイル、それらを明文化し、再現可能な形で回していく──この能力こそが“勝ち筋”です。
具体的には、以下のような型が挙げられます:
- 情報の構造化と外部化:ノート・ブログ・図解などで“思考の再利用”を可能にする
- 営業導線の再現:ポートフォリオやSNS、紹介ルートをテンプレート化して回す
- 予兆の察知(ラプラスの目):日々の違和感を記録し、未来のトラブルの芽を事前につぶす
- 行動後の振り返りと定型化:やったことを残しておき、次に応用できるように整理する
結局のところ、「風が吹けば桶屋が儲かる」の“風”を見抜く力がすべてです。円高基調のときに必ず登場する謎の要人発言、そこからの逆張り──そういった“再現可能な流れ”をどれだけ多く発見し、自分なりに仕込んでおけるかが生存戦略となります。
そして、もう一つ重要な視点があります。それは「孤独に戦わないこと」です。フリーランスに本当に必要なのは、本音を言い合える“参謀”の存在です。
自分の行動力に知恵を掛け算してくれる存在がいれば、思考の軸がブレません。逆に、すべてを一人で抱えると、無駄な失敗が増え、再現性どころか継続すら危うくなります。
フリーランスで成功するとは、個の力で生きることではなく、“個で仕組みを持つ”ことに他なりません。
このような「ラプラスの目」的な予測力は、特別な才能ではありません。
実際には、“自分で動いて失敗し、何がズレだったのかを記録してきた人間”にだけ見えるようになる感覚です。
それは「良い話はいらない、悪い話だけを報告しろ」と自らに命じ、危機の芽を探し続けてきた人間にしか育たない感覚です。
一歩引いて見れば、それは単なる勘ではなく、“再現できる予兆感知”の技術です。再現性とは、こういう「自分の精度を上げる営み」の中でしか培えません。
実際、ビル・ゲイツも2015年の講演で「次に人類を脅かすのはウイルス」と語っていました。真偽はともかく、構造を見抜いていたことは確かです。
それと同じように、フリーランスも「何が起こりそうか」を“事前に型として準備しておけるか”が、生き残る上での分水嶺になるのです。